歴史楽者のひとりごと

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ブラックホールを予言した天才 チャンドラセカール

 先日天文学の世界で大きなニュースがありました。人類はついにブラックホールの撮影に成功したのです。南米やハワイなどの電波望遠鏡をつないで地球規模の観測装置(イベント ホライズン テレスコープ)を作りブラックホールを撮影することができたのです。撮影されたのは、M87銀河の中心に存在するモンスターブラックホールです。
 巨大な星が一生の終わりに超新星爆発を起こしてブラックホールが生まれるのですが、今回撮影されたようなモンスターブラックホールがどのようにして生まれるのかは、まだ謎のままです。
 ともあれ、アインシュタインが発表した一般相対性理論によって、その存在が理論上予測された奇妙な天体ブラックホールの実在がついに証明されたのです。この成功を受けて今後さらに研究が進み、ブラックホールの謎が解明されて行くことでしょう。
 ブラックホールの撮影に成功した快挙は、連日のようにネットでも取り上げられています。そこで、私も今回はブラックホールに関する一人の天才科学者について話をしたいと思います。
 その科学者の名前はチャンドラセカール。非常に重い恒星が一生の最後にブラックホールになることを予言した人です。
 19歳でインドの大学を卒業したチャンドラセカールはイギリスのケンブリッジ大学に留学することになりました。1930年イギリスへ向かう船旅の途中で、チャンドラセカールは、天才的なひらめきを得ました。それは「非常に重たい恒星の一生の終わりは白色矮星ではなく、ブラックホールになる」という考えでした。
 チャンドラセカールの考えは非常に斬新なものでした。1930年頃まで天文学の世界では恒星は全て一生の終わりに白色矮星になると考えられていました。
 しかし、チャンドラセカールは一般相対性理論を考慮して計算した結果、非常に重たい星は、その重さゆえに白色矮星にとどまることができず無限に収縮していきブラックホールになるという結論に達したのです。
 ケンブリッジ大に留学したチャンドラセカールは偉大な天文学者エディントンに師事しこのアイデアを伝えたのです。エディントンはアインシュタイン一般相対性理論の正しさを証明した人物でした。
 しかし、エディントンはチャンドラセカールの考えを全否定しました。エディントンはブラックホールのような奇妙な天体が、宇宙に存在することを認めてくれなかったのです。
 アインシュタイン一般相対性理論を発表した直後、ドイツの天文学者シュヴァルツシルトによって一般相対性理論の方程式が解かれ、ブラックホールが理論上は存在することが予測されていたにもかかわらずです。
 エディントンとチャンドラセカールの間では激しい論争が繰り広げられました。しかし、当時の世界的権威であるエディントンが相手では、チャンドラセカールにとうてい勝ち目はありません。論争に疲れたチャンドラセカールはケンブリッジ大を去りました。
 ところが、その後欧米の天文学者たちがチャンドラセカールの理論を研究し、それが正しいことが認められたのです。
 のちにチャンドラセカールは、その功績が認められノーベル物理学賞を受賞しました。またNASAが打ち上げたX線観測衛星は「チャンドラ」と名付けられました。
 歴史上初めて星がブラックホールになること予言したのはチャンドラセカールです。もしも、彼がインド人ではなく欧米人であればエディントンの受けとめ方は違っていたのではないでしょうか?
 科学の世界では時として権威主義や偏見が進歩を妨げることがあるのです。しかし、我々人類が持つ好奇心はそのような障壁を乗り越えて前進していくのです。
 およそ90年前にチャンドラセカールが予言した奇妙な天体ブラックホールは、科学技術の進歩と世界中の科学者が協力することでついに、その姿をとらえられました。チャンドラセカールが生きていればきっと喜んだことでしょう。そして、私はこの機会にチャンドラセカールの功績を世界中の人々に知って欲しいと思います。

 時々、「ブラックホールが撮影できたことが何の役に立つのですか?」という愚問を発する人がいます。
 ブラックホールについて研究することが何か直接的に人間の生活に利便性を与えることは、なかなかないかもしれません。
 しかし、ブラックホールについて知りたいという好奇心は我々人間だけが持つものです。この好奇心こそが人間を進化させてきたのではないでしょうか。「あの山の向こうには何があるのだろうか?」「この海の向こうにはどんな世界があるのだろうか?」人間はこのような好奇心に突き動かされ新天地を開拓したり、舟を発明し大海原を渡る冒険にでることができたのです。
 何かを知りたいという好奇心と、知るために挑戦すること、それが人間を進化させ同時に人間の持つ技術力を高めてきたのです。月に行きたいという好奇心が人間にロケットを発明させ、月面に人類が降り立つことができたのです。
 何かを知りたいという好奇心に突き動かされ挑戦し続けること、それが我々が人類であるということの証なのです。