歴史楽者のひとりごと

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775年頃の日本はどんな時代だったか

 西暦775年、太陽表面で巨大な爆発が起きました。スーパーフレアと呼ばれる現象です。爆発に伴って大量の高エネルギー粒子が宇宙空間に放出されました。地球へ飛来した高エネルギー粒子は、地球磁場に捕らえられ、大気分子と衝突して発光します。その光がオーロラです。
 通常、オーロラは北極圏や南極圏などの高緯度地域でしか見ることができません。それは、地球磁場に捕らえられた高エネルギー粒子が磁力線に沿って流れ、高緯度地域に集中するからです。
 しかし、太陽表面でスーパーフレアが発生すると、通常のフレアの時よりもはるかに大量の粒子が放出されるので、その一部は地球の中緯度地域にも流れ込んでくるのです。そのため、スーパーフレアが発生した時には、普段はオーロラを見ることができない地域でもオーロラを見ることができるのです。
 775年に起きたスーパーフレアは、恐らく人類史上最大のスーパーフレアです。そのため世界各地でオーロラが出現したのでしょう。
 オーロラを見た当時の人々は、天空に現れた不思議な光をみて、その事を記録に残しました。
 イギリスのアングロサクソン年代記には「空に赤い十字架が現れ、大地に見事な蛇が現れた」という記述があります。また中国の旧唐書には「夜空に絹のような光沢のある白い光の帯が現れた」という記述があります。
 そして、日本では続日本記に宝亀六年(775年)五月丙午「白虹竟天」という記述がります。この文章は、夜空を横断するような虹が見えたという解釈ができるのです。この文章が意味する現象を、オーロラが見えた事だと断言する事はできませんが、その可能性は十分あると思います。
 ところで、この天空の異変が起きた775年頃とは、どのような時代だったのでしょうか?
 775年頃といえば、日本では奈良時代後半に当たります。
 そのころの日本は、政治情勢が非常に不安定な状況でした。橘奈良麻呂の変や恵美押勝の乱など、天皇に寵愛された貴族の権力争いが相次いで起こりました。
 さらに、皇統の存続を揺るがすような大事件が起きました。称徳天皇が僧道鏡天皇の位を譲ろうとしたのです。世に言う宇佐八幡神託事件です。
 764年聖武天皇の娘である称徳天皇が即位しました。この方が天皇の位に就くのは二度目です。(一度目は孝謙天皇称徳天皇は自分が病になったときに看病してくれた僧道鏡を寵愛しました。道鏡太政大臣禅師、さらに法王となって権力を握り仏教政治を行いました。
 そして、769年、宇佐八幡神は、道鏡天皇に即位すれば天下太平になる、というお告げを出したのです。その神意を確かめるため、和気清麻呂が使いに出されましたが、清麻呂がお告げとは反対の報告をしたので、道鏡天皇即位は挫折しました。
 清麻呂称徳天皇の怒りを受け、九州の大隅へ流されましたが、称徳天皇が亡くなると流罪を解かれました。
 昭和15年のことですが、和気清麻呂は皇統の存続を守った忠臣として称えられ、皇居に面した大手壕緑地の一角に、清麻呂銅像が設置されたのです。
 さて、称徳天皇の跡を継いだのは光仁天皇です。光仁天皇は、道鏡時代の仏教政治で混乱した律令政治と国家財政の建て直しに力を注ぎました。
 光仁天皇天智天皇の血を引く天皇です。じつは、壬申の乱に勝利した天武天皇から称徳天皇に至るまで九代に渡って、天皇の位に就いたのはで天武天皇の血を引く者だけでした。
 しかし、天武系の天皇の時代は、政情不安定な時代が続いたのです。そのような時代の閉塞感を打破するために、藤原百川らの貴族が、新たに天智系の天皇を即位させたのです。そして、称徳天皇を最後に、天武系の血は途絶えたのでした。
 白虹竟天が起きたのは、光仁天皇の時代です。空に出現した不思議な光の帯を見て、人々は何を思ったでしょうか?
 天変地異や戦争が起きる不吉な前兆と思ったのでしょうか?
 それとも、新しい時代へ移る希望の光に思えたでしょうか?
 それは、その光を見た人の立場によってそれぞれ異なるのかもしれません。
 いずれにしても、794年光仁天皇の跡を継いだ桓武天皇は、平安京へ都を移し新しい時代が始まったのです。

 今回参考にさせて頂いた文献
 詳説 日本史 山川出版社
 千代田区観光協会HP
 岡山県HP
 NHK-BSプレミアム コズミックフロント「西暦775年のミステリー」